[知楽市の履歴書](3)発達障害者支援プロジェクトの始まり

[知楽市の履歴書]:2003年に設立した知楽市の20年を振り返ります。

発達障害者支援プロジェクトの始まり

初代専務理事 高本 芳昭

2004年3月、社会福祉法人つくしの会自閉症療育施設「はぎの郷」を訪問した。施設見学の後の会話が発達障害者支援のきっかけである。「パソコン教室やろうか」「それ良いかも」――この何気ない会話が思わぬ展開となった。

その際に頂いた小冊子『自閉症の手引~あなたは隣のレインマンを知っていますか~』(日本自閉症協会)を通じて、初めて自閉症について深く考える機会を得た。サブタイトルから映画『レインマン』の兄ダスティホフマンと弟トムクルーズの兄弟愛を思い出したが、メンバーの多くは自閉症と向き合うのは初めてであり、今振り返ると、それがむしろ活動継続の原動力になったのかも知れない。

■トロルらく楽パソコンクラブ

知識も経験もない、資金もない、器材もない、全てがゼロからのスタートだったが、丁度タイミング良く、石川県コミュニティビジネス創出事業の公募があり、これに応募して採択された。こうして「はぎの郷プロジェクト」の活動が始まった。

1年間の活動計画を、準備3か月、教室開講5か月、まとめ2か月の3つのフェーズに分けて作成した。

準備活動は、まず「自閉症とは何か」を学ぶことから始めた。はぎの郷スタッフからの指導はもちろんのこと、福井大学の熊谷教授や石川県立養護学校の島田先生などを訪問して教えて頂いた。書籍を読み、知識の習得に励んだ。器材の準備は、ノートパソコンをリースアップしたものなどをIT企業から譲り受け、自作の教材や小道具を工夫して用意した。

そして2004年11月、いよいよ「トロルらく楽パソコンクラブ」が開講した。受講者10名に対し、講師5名、サブ講師5名、専門スタッフ数名、映像スタッフ、事務局などが受講者を手厚くサポートする体制を整えて臨んだ。教室は受講者と講師がマンツーマンで進め、全てのスタッフが同じ部屋に待機して、何かのアクシデントに備え雰囲気を共有した。2005年3月までに合計16回の教室を開催し、第1期を終了した。

まとめの期間には、すべての映像や記録を活動の成果としてレポートにまとめた。

この試みは全国的にも稀な事例として、多くの養護教育関係者や療育支援に関わる方々から注目された。独特のコミュニケーション能力を有する受講者と講師との間に、ITを通じて思いがけない心の交流が生まれ、安心と安全を感じる信頼関係が築かれたこと、修了後も(トロルらく楽パソコンクラブを継承した)「インターネットカフェ」に積極的に参加するなど、受講者に意欲的な生活習慣が感じられるようになったことが評価されたのである。

■交流サロン

そこで、より多くの人が利用できる利便性の高い場所に発達障害者支援のポータル機能を持つ「交流サロン」を設置したいと考えるようになった。障害者はもとより家族や支援者が、自由に各自の趣くままに、交わる、学ぶ、遊ぶ、楽しむことができる場を提供することを目指したのである。

はぎの郷の入居者を対象にした「トロルらく楽パソコンクラブ」の経験を活かし、在宅者を対象に気軽に利用できる場を創ろうというアイデアが生まれた。数回の検討会を経て、発達障害者の就労を目的に社会参加や自立を支援する「IT交流サロン」が誕生した。

誰にでも自由に交流できるサロンでありたいと考え、最初は金沢市の「ITビジネスプラザ武蔵」で開催し、その後、野々市市の「情報交流館カメリア」に移した。一般の方も利用するオープンスペースで活動を行うことが、社会参加の第一歩となった。

この年、発達障害者支援法の施行に基づき、47都道府県に発達障害者支援センターが設置された。石川県では「発達障害者支援センター パース」(つくしの会)が設けられ、はぎの郷スタッフの数名が相談員として業務を開始した。これを機に、パース・はぎの郷・ケーネット知楽市3者のコラボレーションが生まれた。

2007年4月、発達障害支援ネット「パースウェブネットクラブ」(通称:PWC)の運営を開始した。某IT企業のソーシャルネットワークサービス(SNS)を利用し、発達障害者、家族、療育関係者、相談員、一般支援者がウェブで繋がる交流サロンを実現した。運営経費はNPOが負担し、利用者は無償で参加できるよう配慮した。家族相互の交流や相談員との交流、支援者との交流など、約150名の利用者が、2015年3月のSNSサービス終了まで、活発に交流した。

2009年4月には、いしかわ発達障害情報マップ「パースウェブマップ」(通称:PWM)を構築し、運用を開始した。誰もが発達障害関係情報をワンストップで入手できる情報サイトとして、利便性の高い運営を心がけ、2016年3月までサービスを継続した。

■一丁目一番地

2024年現在、「インターネットカフェ」や「IT交流サロン」は活動を継続している。発達障害者支援プロジェクトは、20周年を迎えた今も、私たちの活動の「一丁目一番地」である。

 

(4)『自閉症者とパソコンと私』  へ続く


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