[知楽市の履歴書](5)ケーネット知楽市とともに歩めた幸運と、出会えた皆様に感謝

[知楽市の履歴書]:2003年に設立した知楽市の20年を振り返ります。

ケーネット知楽市とともに歩めた幸運と、出会えた皆様に感謝

発達障害者支援センターパース
石川県発達障害児者地域支援マネジャー(前センター長)瀬戸美津子

1. 2005年、発達障害者支援法施行そして発達障害者支援センターパースの開設

今から思えば、ケーネット知楽市の皆様方と出会うまで、私はちゃんとした仕事のやり方というものをおよそ知らなかったのでしょう。「ITで発達障害者支援ができるといいですね」というお互いの構想から「再来年にはぜひ実現しましょうね」と言われた時、「えっ、来年の間違いでは?」と一瞬耳を疑いました。はぎの郷の設立の時でさえ、日中活動のプログラムについては半年ほど前から定期的に集まって何とか決めていったという突貫工事感がぬぐえませんでした。ところが、この紳士方は、1年を超える時間設定の中で、ニーズ調査や専門家のヒアリングを重ねながら、徐々にこの構想を形にしていこうというのです。福祉とは異なる業種のOBの方々が、お金儲けとは縁のない夢について、少年のようなキラキラした目で語る姿に、私はカルチャーショックを受けました。

そんなケーネット知楽市との出会いは運命的と言える時期でした。2005年4月に発達障害者支援法が施行され、同年11月、石川県に発達障害者支援センターパースが開設します。遡って2003年、はぎの郷のトロル(地域相談部)に居た私は、センター開設に向けていろいろ準備していました。その時に、ケーネット知楽市というNPO法人のことを聞いたのです。私たちと協働で発達障害者支援プロジェクト(以下、トロルプロジェクトあるいはトロルプロ)を立ち上げてくださることになり、私も積極的にアイデアミーティングに参加させていただくことにしました。その時の贅沢で刺激的な時間と空間、対話による知の産物が、パースと私を育てる大きな栄養素となっていきました。

2. トロルプロジェクトで起こった数々の奇跡~IT交流サロンのエピソードを中心に~

発達障害とIT。この掛け合わせに私たちが期待したのは、主に次の3つでした。
①音声言語での対話に困難がある人たちがITを活用することで、コミュニケーションの可能性が広がること
②人間関係に困難を感じて引きこもりがちな人たちにとって、相談機関よりもハードルが低く通いやすい場ができること
③孤立しがちな家族が自然な形で出会い語り合えるサロンができること

講師になってくださる方々は、当初から発達障害や二次症状など発達障害者支援の基礎について熱心に学んでくださり、さらにIT交流サロンの事前と事後にパーススタッフとのミーティングを毎回綿密に行ってくださいました。そうして3つとも成果が見られたのですが、特に②に関してはごく早い段階で変化が見られました。他者に対する警戒心や恐怖心が大きいという前情報を持って来られた方が、トロルプロ講師と一、二度会っただけでも警戒心が解かれている様子が見られたのです。

トロルプロの講師たちがIT交流サロンに通う当事者やご家族に安心感を与える理由を、私は次のように分析しました。教育や福祉分野の専門家が漂わせる押しつけがましさを纏っていない自然体であること、利用当事者やご家族に対して、お客様に対するように丁寧な姿勢と言葉遣いで接してくださることです。初対面の人と接する際の当たり前の態度のようにも思われます。しかし、過去に何らかの理由で理不尽な対応をされた経験を持っていると、普通に穏やかな対応されることが他者への信頼感につながり、ここなら続けて通ってみよう、と思ってもらえたのではないかと思います。この成果について、私は全国の発達障害者支援センターが集まる連絡協議会で発表する機会を得ました。他県には例を見ないNPO法人との協働事業である点を羨ましがられたものです。

こうして20年間に何人もの相談者らが、重かった腰を上げてIT交流サロンを訪れ、人と接することをそれほど怖がらなくなり、リラックスして講師と談笑するようになり、やがて他の居場所や仕事を得て巣立っていきました。それぞれの利用者・ご家族と担当講師との、山あり谷ありで唯一無二のストーリーがあります。今は疎遠になった講師や天国にいらっしゃる講師の顔が懐かしく瞼の裏に浮かんできて…とにかくこの20年の思い出はたくさんありすぎて胸がいっぱいになります。

3. あっという間に20年経ち、現在、そして未来

トロルプロ講師とパーススタッフは毎回の実践とミーティングの記録を綴り、パソコン上で共有してきました。その量は今や膨大なものになっています。私たちの専門分野でも重要とされる「ポートフォリオ」の価値観を、知楽市との協働プロジェクトで改めて教えていただいたと思います。パースは“発達障害者支援”という名を冠しながらITに関しては“支援される側”で、お世話になりっぱなしでした。SNSが世の中に登場し始めた頃にいち早く導入を手ほどきしてもらい、パースウェブネットクラブ(フェイスブックのようなWeb上の語り場)やパースウェブマップ(情報サイト)を、協働して運営させてもらっていた時期もありました。知楽市という存在がサポートしてくれなければ、自分たちだけで形にすることなど、叶わなかったであろう体験をいくつもさせてもらいました。

トロルプロ初期のパースは一部屋で狭く交通の便も悪いため、IT交流サロンの実施場所として、ITビジネスプラザ武蔵、野々市市交流館カメリア、石川県リハビリテーションセンターなど、担当者と一緒に場所探しに奔走しました。近年はパースが二部屋に増えたことと新型コロナウイルスの外出自粛をきっかけに、パース内で時間交代制で行うようになり早や4年目です。

ふと見れば、すでに4年を超えて通い続けている利用当事者もいらっしゃいます。彼はプログラミングを教わっていて、簡単なゲームを作ったり、知楽市のプログラミング教室のプロジェクトチームに同行して小学生に教えに行ったりもしています。パースの一角で小さなノートパソコンを立ち上げて担当講師と2人でカチカチやっているところをたまに横から覗かせてもらうと、遠い世界の新しい何かにアクセスしているようですが、2人のやっていることが高度過ぎて気が遠くなりそうです。その結果、妄想が始まります。パースはこれからも発達障害のある当事者や家族や関係者との相談支援を続けていくのだろうけど…(ここから夢?それとも妄想?)IT交流サロンはもしかして、発達に凸凹のある人達が世界のあちこちにアクセスして困りごとを解決したり、凸凹ならではの楽しいことを共有できる基地になるんじゃないかな…多くのことがAIで済まされるようになった未来でも、IT交流サロンのようなほっとできる居場所のニーズは、むしろ増えていくのかも知れないなぁと。

そして、AIからは出てこないアイデアが生まれる場所、それがケーネット知楽市のアイデアミーティングです。私が出会った「ケーネット知楽市」は、これからもワクワクするアイデアを生み出し続ける場であり続けるのでしょう。20年間、ケーネット知楽市とともに歩んでこられたことを本当に幸せに思います。これからもお付き合いよろしくお願いいたします。感謝の気持ちを込めて。

(6)金沢コミュニティ情報ネット「金沢e広見」の始まりと狙い へ続く

 


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